チーム内の役割を「あの人」と比べない:自分だけの強みと貢献度を見出すヒント
チーム内の役割を他人と比べてしまう心理
チームで働く中で、他のメンバーの役割や担当を見聞きし、「あの人は重要な部分を任されているのに、自分は…」と感じたり、「他のメンバーは専門性の高い役割なのに、自分は汎用的な役割だ」と比較してしまったりすることはありませんか。特に、ITエンジニアの現場では、それぞれが持つスキルや担当する領域が異なるため、このような比較が生じやすいかもしれません。
このような比較は、多かれ少なかれ誰にでも起こり得ることです。しかし、この比較を繰り返すうちに、「自分の役割は価値がないのではないか」「チームに十分に貢献できていないのではないか」といった不安につながり、自己肯定感を下げてしまうことがあります。他人との比較によって、自分自身の役割の価値や、チームへの貢献の形が見えにくくなってしまうのです。
この記事では、チーム内での役割に関する他人との比較から抜け出し、自分らしい強みを活かした貢献を見つけ、自己肯定感を育むための考え方や具体的なステップについてお伝えします。
なぜチームでの役割を他人と比べてしまうのか
まず、なぜ私たちはチーム内の役割を他人と比べてしまうのでしょうか。いくつかの要因が考えられます。
チーム開発特有の可視化されにくい貢献
チーム開発では、コードを書くことだけが貢献ではありません。設計、テスト、ドキュメンテーション、レビュー、デバッグ、コミュニケーション、チーム内の雰囲気作りなど、様々な貢献の形があります。しかし、これらの中には成果が数値化しにくく、目に見えにくいものも多いです。他のメンバーの「コードを書くスピード」や「新しい技術の導入」といった目に見えやすい貢献と比較して、自分の「地道なテスト」や「丁寧なドキュメント作成」といった貢献が霞んで見えてしまうことがあります。
役割の定義や評価基準への不安
チーム内でのそれぞれの役割や貢献が明確に定義されていない場合、自分の立ち位置や期待されていることが曖昧になり、他人と比較して自分の価値を測ろうとしてしまうことがあります。また、評価基準が分かりにくい場合も、客観的な基準がないために他人との比較に頼ってしまう傾向があります。
承認欲求と自己肯定感の関連
「チームの中で認められたい」「自分の存在意義を感じたい」という承認欲求は自然な感情です。しかし、この承認を他人との比較によって得ようとすると、際限のない競争に巻き込まれることになります。また、自己肯定感が低い場合、他人との比較によって自分の価値を確認しようとする傾向が強まることがあります。
自分の強みや価値の自己認識不足
自分自身のスキル、経験、得意なこと、情熱を傾けられることなどを十分に理解していないと、チームの中でどのような役割を担うのが自分にとって最も自然で、かつチームに貢献できるのかが見えにくくなります。結果として、他のメンバーの「分かりやすい役割」を羨ましく感じ、自分を過小評価してしまうことがあります。
比較を手放し、自分らしい役割を見つけるための考え方
他人との役割比較から抜け出すためには、まず考え方を変えることから始めることが大切です。
チーム全体の成功が目的であることの再認識
チームの最終的な目的は、個人が突出することではなく、チーム全体として成果を出すことです。一人ひとりが異なる役割を担い、それぞれの強みを活かすことで、チームはより大きな力を発揮できます。他のメンバーの役割は、あなたと競争する対象ではなく、チームとして目標を達成するための必要なピースであると捉え直してみましょう。
役割の多様性と相互補完性の理解
優れたチームとは、多様なスキルや視点を持ったメンバーが集まり、互いの弱みを補い、強みを活かし合えるチームです。チーム内のすべてのメンバーが同じ役割やスキルを持つ必要はありません。むしろ、異なる役割やスキルがあるからこそ、多角的な問題解決が可能になります。あなたの役割が他の誰かの役割を補完し、チーム全体のバランスを取っていると考えましょう。
「重要度」ではなく「適合度」「貢献の形」に焦点を当てる
役割に「重要度」の優劣をつけるのではなく、「自分にとってその役割がどれだけ適合しているか」「どのような形でチームに貢献できているか」に焦点を当ててみましょう。あなたが担っている役割は、他の誰かが担うよりも、あなたのスキルや志向に合っているからこそ任されているのかもしれません。貢献の形は、派手なものだけが価値があるわけではありません。地道な作業、円滑なコミュニケーション、新しい視点の提供など、様々な貢献がチームを支えています。
自分らしい役割と貢献を見つけるための実践
考え方を変えることに加えて、具体的な行動を通じて、自分らしい役割と貢献を見つけていきましょう。
1. 自己理解を深める
- 自分の得意なこと、好きなこと、価値観を棚卸しするワーク: どのような技術や業務に興味がありますか? これまでどのような成功体験がありますか? チームの中でどのような役割を担っている時に最もやりがいを感じますか? 過去の経験や内省を通じて、自分の強み、スキル、情熱を明確にしてみましょう。リストに書き出してみることも有効です。
- チーム内での自分の「自然な振る舞い」や「貢献していると感じること」を観察する: 意識せずともあなたがチーム内で自然に行っていることは何ですか? 例えば、困っているメンバーに声をかける、情報共有を積極的に行う、新しいツールの情報を集める、といった行動も立派な貢献です。自分がどのような場面でチームに貢献できていると感じるかを観察し、記録してみましょう。
2. チーム内でのコミュニケーションを図る
- 自分の役割や貢献について話し合う機会を持つ: 信頼できるチームメンバーや上司に、自分の役割やチームからの期待について尋ねてみましょう。また、自分がどのようにチームに貢献したいと考えているかを伝えてみることも有効です。オープンなコミュニケーションは、自分の役割への理解を深め、不安を解消する助けになります。
- 他のメンバーの役割や貢献を具体的に知る: 他のメンバーがどのような業務を担当し、どのようにチームに貢献しているのかを知る機会を持ちましょう。お互いの役割を理解することで、チーム全体の構造が見えやすくなり、自分の役割がチームの中でどのように位置づけられているのかを客観的に捉えることができます。また、他のメンバーへのリスペクトが生まれ、比較から協調へと視点を変える助けにもなります。
3. 貢献の形を可視化する
- 自分の担当業務や成果を記録する習慣をつける: 日々行っている業務内容や、それによって得られた成果を記録しておきましょう。たとえ小さなことでも構いません。この記録は、あなたがチームにどのように貢献しているかを具体的に示す証拠となり、漠然とした不安を払拭する手助けになります。
- 目に見えない貢献にも目を向ける: コードレビューでの的確なフィードバック、分かりやすいドキュメント作成、チーム内のナレッジ共有、心理的安全性を高めるためのサポートなど、直接的な成果に繋がりにくいけれどチームにとって重要な貢献は多くあります。これらの目に見えない貢献にも意識的に目を向け、自分の行動を肯定的に捉えましょう。
4. 役割の再定義と積極的な行動
- チームのニーズと自分の強みを照らし合わせ、貢献できる領域を見つける: チームが現在抱えている課題や、今後必要となるスキルは何でしょうか。そこにあなたの強みを活かせる領域はありませんか。チームの目標達成に貢献できる方法を考え、積極的に提案してみましょう。
- 小さな改善提案やサポートから始める: 大きな役割を担うことだけが貢献ではありません。日々の業務の中で見つけた小さな改善点に気づき、提案したり実行したりすること、困っているメンバーをサポートすることなども、チーム全体の生産性や士気を高める重要な貢献です。
まとめ:自分らしい貢献が自己肯定感を育む
チーム内の役割を他人と比べてしまうことは、自己肯定感を低下させ、自分らしい働きがいを見失う原因となります。比較の背景には、可視化されにくい貢献への不安や自己認識の不足があるかもしれません。
他人との比較を手放すためには、チーム全体の成功に焦点を当て、役割の多様性を理解し、自分の役割の「重要度」ではなく「適合度」や「貢献の形」に目を向けることが大切です。
そして、自己理解を深め、チームメンバーと積極的にコミュニケーションを取り、自分の貢献を可視化し、自分らしい貢献の領域を見つけて行動する。これらの実践を通じて、あなたは他人と比較することなく、自分自身の強みを活かした独自の貢献を見出すことができるでしょう。
自分らしい役割を見つけ、チームに貢献できているという実感は、何物にも代えがたい自己肯定感につながります。焦らず、一歩ずつ、あなたらしい貢献の形を探求していきましょう。